『理系の子』 ジュディ・ダットン著

 高校生対象の国際科学フェアに青春をかけた11人の物語である。数学や理科の「オリンピック」のような”競技”と大きく異なるのは、出された問題に解答するのではなく、全く自由に研究を行いその成果を発表する場であるという点である。

 例えば、「核融合」に魅せられてなんと核融合炉を手作りで制作した少年や、少年院の厳しい(物騒な!)生活環境の中で火星のクレーターを解析し、火星の地下水が地表近くを流れているのはどのあたりかを予想したり(その後NASAの掘削により、予想が正しかったことが証明されることになる)、家族6人がいわゆるトレーラーハウスに住み、冬には暖房もない貧しい家庭に育った少年が、廃品を集め太陽光発電によるヒーターを作ったり。

 彼らのおかれた環境は、裕福な家庭に育った者もいれば、日々の生活に困窮していて、大学で学ぶためには何としても科学フェアで入賞して奨学金をとらなければならない者もいて、本当に様々であるが、彼らの研究の動機である極めて強い知的探求心と、それを見守り支えてくれる人たちがまわりにいたことは共通している。

 彼らの研究や発見は、体系的に学んだ知識から得られたものではなく、むしろ自分の興味のままに手当たり次第、本などを読んで知識を得ていたり、また自分の生活や経験に基づいて研究を行っている。例えば、中学受験や高校受験を経験した皆さんは、その際の受験勉強を通して、「効率よく」知識を身につけることに慣れ切ってしまってはいないか、一度自分に問いかけてもらいたいと思う。教える側の私自身にも、同じことを問いかけなければならないと感じた。

 何においても「効率」を求められる時代であるがゆえに、「効率」によって失われるものにも目を向けたいと思う。